多嚢胞性卵巣 症候群
不妊の漢方相談にいらした方の中には、多嚢胞性卵巣症候群といわれている方がいらっしゃいます。月経不順や無月経などで婦人科を受診して、多囊胞性卵巣症候群と診断されたという方もいらっしゃいます。
多嚢胞性卵巣症候群はPoly Cystic Ovary SyndromeからPCOSとも呼ばれます。PCOSは不妊原因の20%を占めるという報告もあるそうです。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは
妊娠は、排卵、受精、着床など、多くのステップを経て、はじめて成立します。どれか1つでも、不具合があると、妊娠は成立しないのです。
多くのステップのうち、排卵がうまくいかないケースを排卵障害といいます。排卵障害にも、いくつかのパターンがあり、そのうちの1つが多囊胞性卵巣症候群(PCOS)です。
卵巣内に多数の卵胞が溜まって、なかなか排卵しない状態です。
自覚症状としては、スムーズに排卵できないため、月経が起こりにくくなります。無月経や無排卵月経のこともあります。排卵しにくいですが、排卵する際は、排卵痛などの体調不良を伴うことがあります。不妊治療のために婦人科を受診して、はじめて多囊胞性卵巣症候群(PCOS)だとわかることもあるようです。
通常、その月経周期に発育を開始した、いくつかの卵胞のうち、1個の卵胞(主席卵胞)が大きくなり、これが、排卵します。そして、いっしょに発育を始めたほかの卵胞は萎縮してしまいます。ところが、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の場合は、主席卵胞ができません。発育を始めた多数の卵胞が、みな発育途上となり、排卵できないまま、卵子だけが萎縮します。空になった卵胞が卵巣に残り、これを超音波で見ると、嚢胞が列になっていて、まるでネックレスのように見えます。これを、「ネックレスサイン」といい、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)を診断する際の特徴的な症状です。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断と治療
多囊胞性卵巣症候群(PCOS)を診断する際のもっとも特徴的なことは、前述の、超音波診断による「ネックレスサイン」です。
次に、ホルモン値のアンバランスが挙げられます。
血中LHの値が血中FSHより高くなり、AMH(抗ミュラー管ホルモン)は高値となります。
また、相対的に、男性ホルモンが優位になりやすく、ひげや多毛などの男性化兆候(日本人での頻度は少ない)や肥満やニキビがみられることがあります。
多囊胞性卵巣症候群(PCOS)に対する西洋医学的な対応としては、クロミフェンなどの排卵誘発剤によって、排卵を起こさせること。場合によっては、腹腔鏡手術により、排卵を起こりやすくすることが挙げられます。糖代謝の失調を伴う場合は、糖尿病の薬を服用することで排卵しやすくなることもあるそうです。
漢方における多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の発症の仕組み
多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の診断には、超音波での検査やホルモン値の測定が必要です。そのため、漢方の古典に多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の概念は、ありませんが、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)でよくみられる症状を漢方の考え方で分析してみましょう。
①もともとの体質に腎虚があるため、成熟を開始した、複数の卵胞がどれも充分な成長をせず、排卵できる状態になりません。
同時に、②気滞(肝気鬱結)が存在するためスムーズな排卵が妨げられ、成熟を開始した複数の卵胞が未成熟・未排卵のまま、列になって残ります。
③これがいわゆる「ネックレスサイン」です。残ったネックレスサインは、漢方では、瘀血あるいは痰飲であり、さらに、次に起こるべき排卵の妨げになると考えられます。
つまり、主な原因は腎虚と気滞(肝気鬱結)であり、その結果、瘀血あるいは痰飲が生じていると考えられるのです。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の漢方治療
さて、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の治療を漢方的に考えると…。
① 選ばれたひとつの主席卵胞が充分に成長する為に、「補腎」をすること。
そして、②充分に成長した卵子が、卵胞からスムーズに飛び出すために、その妨げとなる「気滞」を取り除くこと(疏肝理気)。③PCOSの特徴である「ネックレスサイン」を「瘀血」あるいは「痰飲」ととらえ、それを除くことが挙げられます。
漢方薬には、①「補腎」をするもの、②「気滞」を除くもの、③「瘀血」「痰飲」を除くものは、数多くあります。
もともとの体質、月経の状態、気が滞りがちな月経前や排卵期の体調変化などを細かくお聞きして、漢方薬をお選びします。
漢方薬で多囊胞性卵巣症候群(PCOS)を改善する場合も、他のご相談と同様、お身体の状態に合った漢方薬を選ぶことが大切です。
多囊胞性卵巣症候群(PCOS)と診断され、不妊への不安を感じている方は、少なくないことでしょう。
当薬局に多囊胞性卵巣症候群(PCOS)の漢方相談にいらして、月経が順調になった方、赤ちゃんに恵まれた方も多くいらっしゃいます。
どうぞお気軽にご相談ください。