子宮筋腫
1.子宮筋腫とは
子宮筋腫とは、子宮を構成している平滑筋に発生する良性腫瘍(平滑筋腫)で、婦人科疾患の中で最も多く、生殖年令の女性の20~30%にみられ、特に30~40歳代に好発します。ほとんどは子宮体部に発生し、多発することが多く、悪性化することはまれです。また、発生増大に、エストロゲンが関与するエストロゲン依存性疾患の一つです。
2.子宮筋腫の症状
症状としては、過多月経、過長月経、月経痛(月経困難症)、不正性器出血、貧血、腹部腫瘤触知などがみられます。さらに子宮筋腫が大きくなると周囲臓器を圧迫し、頻尿、排尿困難、便秘、腰痛などの症状もみられ、時には不妊や流早産の原因にもなります。症状の強さは子宮筋腫の部位、大きさ、個数などによって異なります。特に症状もなく健康診断で偶然指摘されることも少なくありません。
子宮筋腫の分類
子宮は外側から漿膜、子宮筋層、子宮内膜という3層構造になっており、筋腫が発生する部位により、漿膜下筋腫、筋層内筋腫、粘膜下筋腫に分類されます。
1.漿膜下筋腫
筋腫が子宮漿膜の下に発生し、子宮筋腫全体の約20%を占めます。一部は子宮本体と離れて、細い茎でつながる有茎漿膜下筋腫もみられます。無症状のことが多いですが、筋腫が発育すると、周辺臓器を圧迫します。また、有茎のものは、茎捻転を起こすと急性腹痛を発症します。卵巣腫瘍との鑑別も重要となります。
2.筋層内筋腫(壁内筋腫)
筋腫が子宮の筋層の中に発生します。子宮筋腫の中で最も多く全体の約70%を占めます。筋腫が発育すると、子宮が増大、変形します。子宮の変形により、子宮筋の収縮が妨げられ、経血の排出障害、子宮収縮の増強、月経痛、腰痛、過長月経、貧血などがみられます。
3.粘膜下筋腫
筋腫が子宮粘膜直下に発生し、子宮腔内に向けて発育します。子宮筋腫全体の約10%を占めます。筋腫が充血したり、筋腫により子宮内膜が引き伸ばされて薄くなったりして、出血しやすい状態になり過多月経がみられます。さらに発育し、局所の子宮内膜が圧迫され、鬱血し、壊死、帯下増加、過多月経、貧血などを生じ、筋腫を子宮から排除しようと子宮収縮が増強すると月経痛、過長月経がおこります。また、一部は子宮本体と離れて、細い茎でつながる有茎粘膜下筋腫となることもあります。これが、子宮内で成長すると、異物を子宮から排除しようと子宮収縮が増強し、外子宮口から腹腔内に突出することもあります。これを筋腫分娩といいます。粘膜下筋腫は、ポリープや子宮体部肉腫との鑑別が必要となります。
☆子宮筋腫には、この他、子宮頸部筋腫、広間膜内筋腫などがあります。
☆子宮筋腫の60~70%は多発性です。(多発性子宮筋腫)
☆子宮筋腫の合併症としては、月経困難症、子宮内膜症、子宮腺筋症が多くみられます。
漢方における子宮筋腫の概念…癥瘕・積聚とは?
漢方では、腹腔内に腫塊ができ脹満・疼痛を伴う病証を癥瘕、積聚といいます。
結塊が堅く、形がはっきりとしていて、移動性がなく固定しているものを癥あるいは積といい、形状が明らかでなく遊走性であるものを瘕あるいは聚といいます。
一般的に癓瘕は婦人科疾患などの病変に、積聚は消化器などの病変に多く用いられる名称です。つまり、漢方では、子宮筋腫や卵巣嚢腫などの、婦女の下腹部の胞中に結塊があり、脹満感や疼痛、甚だしければ出血を伴うものは「癓瘕」と呼ばれます。
別名として、例えば、漢方の聖典の一つである《黄帝内経霊枢》によると、子宮腫瘤を「石瘕(せきか)」、卵巣腫瘤を「腸覃(ちょうたん)」と称しています。
子宮筋腫の発生の仕組み
一.病因
- 七情内傷
- 月経期や産後の不摂生
- 外感六淫
- 飲食不節
- 労倦過度
- 安逸過度
- 房事不節
- 素体虚弱
二.病機
- 気滞ストレス、過労、運動不足、外部環境の変化などから経脈が阻滞し、気の流れが停滞することにより、血行不良や水液の運行失調を生じ、血瘀や痰湿が子宮に蓄積すると癓瘕を発症します。
- 血瘀
強い怒りなどによる肝の損傷からの気逆血留、或いは憂思傷脾による気虚血滞などにより血瘀を生じます。また、月経期や産後などに、風寒が虚に乗じて侵入すると、寒凝により気血が阻滞します。或いは余血が出尽くさないうちから房事を行うと、邪と血が結びついて瘀血を生じやすくなります。その他、血熱、外傷などからも血瘀を生じ、胞中に蓄積すると癓瘕を形成します。 - 痰湿
生来の脾虚、或いは飲食の不摂生、寒涼物の過食などによる脾胃の損傷、或いは肝気犯脾による運化失調などから、湿濁内停、凝集すると痰を生じます。痰が胞脈を阻滞し、血気と結びついて胞中に蓄積すると癓瘕となります。 - 湿熱
月経期や産後などの子宮が空虚の時、或いは余血が出尽くさないうちから房事を行うなどにより、湿熱邪毒が虚に乗じて侵入します。或いは脾失健運から湿を生じ、下焦に流注、日久により化熱すると湿熱となります。湿熱と気血が胞中にて結びつくと癓瘕を形成します。
これらの気滞、血瘀、痰湿、湿熱は、単独ではなく、関連して癓瘕を形成することが多いため、病証の軽重・主客を判別し、治療に反映することも重要となります。
診断要点
本病は、婦女の下腹部の子宮、胞脈、胞絡などに腫塊を形成し、脹満、疼痛がみられ、経・帯・胎・産(月経・帯下・妊娠・産後)の諸証に影響を及ぼし、月経過多・月経過少・崩漏・経閉・痛経・帯下増多・堕胎(妊娠3ヵ月未満の流産)・小産(妊娠3ヵ月以上の流産)・不孕(不妊)などを引き起こします。
一般に、癓瘕の生長が緩慢で、按圧すると柔軟で、遊走性があるものは善証で、予後は、良好です。癓瘕の生長が迅速で、按圧すると堅硬で、移動性がなく固定しており、表面が凸凹していて平らでないものは悪性で予後が良くないことが多いです。
弁証要点
弁証では、疾病の性質、部位、大小、病程の長短や兼証、舌脈などから、病が気分にあるか、血分にあるか、痰湿や湿熱に属するか、新病か、久病か、などを弁別します。
治療原則
癓瘕の治療は、活血化瘀、軟堅散結、攻堅破積を原則とし、気病、血病、新病、久病を臨床の根拠として活用します。病が気分にあれば、理気行滞を主とし、理血を佐とします。病が血分にあれば、活血破瘀を主とし、理気を佐とします。痰湿の者は袪痰消積に行気活血を併用し、湿熱の者は、清熱除湿、解毒散結に活血化瘀を併施します。
新病で、正気が十分な場合、攻堅破積を用い、久病で正気不足も見られる場合は、攻補兼施を行います。清代の《医宗金鑑》の記載にある「衰えること其の半なれば止む。」を遵守し、猛攻・峻伐による元気の損傷を引き起こさないようにします。
以上が、子宮筋腫の漢方治療の概要です。
漢方も万能ではありませんので、症状の強い場合などは手術療法等を考えなければならない場合もありますが、それ以外は、有効な方法の一つです。
具体的な治療や処方については、他の疾患も同様ですが、「子宮筋腫には、○○湯」と決めつけずに、個々の症状や体質をきちんと判断して決定することが、最も重要となります。臨機応変で、細やかな対応が必要となりますので、一度ご相談下さい。