月経不順 (生理不順)
- 月経とは
月経とは、一定の規律をもった周期的な胞宮(子宮)からの出血のことをいいます。 - 胞宮とは
胞宮は、子宮のことで、他に子臓、子処とも称します。月経と妊娠を直接行う器官です。 - 正常な月経とは
月経周期が26~35日で持続日数は3~7日くらいとされています。
漢方における月経・妊娠の生理機構
月経と五臓の関係:月経の機構には、特に肝・腎・脾の働きが関与しています。
1.月経に対する肝の働き
「肝は疏泄を主る」といい、疏泄作用により血をのびのびと流し、
衝脈・任脈といった経絡や胞宮(子宮)にはたらきかけて、経血を排出させます。
また、「肝は蔵血を主る」とされ、肝は血のタンクであり、血の量の調節をしています。
2.月経に対する脾の働き
「脾は統血を主る」といい、脾は血液を統摂して脈中を循行させ、外部に溢れないようにしています。
また、「脾は運化を主る」という働きから、脾は胃、小腸等と協力して、飲食物から水穀の精微(飲食物の栄養)を吸収して、血や精(ホルモン)の原料とします。
3.月経に対する腎の働き
「腎は精を蔵し、生長、発育、生殖を主る」といわれています。
精と血は互いに転化しあう関係があり、腎に貯蔵されている精は血に変化することができます。
また、腎は、天癸(生長、発育、生殖に係わる精)や衝脈(月経を順調にする経脈『五臓六腑の血海』といわれる)・任脈(妊娠を可能にする経脈)を滋養しています。
さらに、衝脈・任脈・胞宮にはたらきかけて、経血を貯えさせます。
漢方における月経不順の発生のしくみ
1.腎虚証
先天的な体質虚弱、慢性疾患、過労、房事過多、出産過多(難産、流産、堕胎)、恐驚などの精神刺激、老化等で ホルモンの要である腎を損傷し、腎気虚、腎陽虚、腎陰虚等を生じます。
- 腎気虚から腎気不固証を生じ、衝脈・任脈を滋養できず衝任不固証となり、月経期まで経血を抑えておくことができず月経が早まります。
- 腎陽虚から内寒を生じ、寒の「凝滞」の性質から、血液の流れが悪くなり、月経が遅れます。
- 腎精不足から精を血に転化できず、血が不足がちになり月経が遅れます。
- 腎陰虚火旺から血熱を生じ、血の流れが急激になり月経が早まります。
2.肝気鬱結証
精神刺激により肝の疏泄機能が失調し、疏泄大過或いは疏泄不及となり、血海(衝脈)の貯溢に異常をきたし、月経が早まったり、遅れたり、バラバラになります。
3.瘀血証
- 外部からの刺激(寒さ、暑さなど)や精神刺激による気滞、或いは月経後や産後の出血の不順などから瘀血(血の停滞)を生じ、胞宮(子宮)や衝脈・任脈に瘀血が停滞することにより、新しい血液が経脈を順調に循れず、溢れて月経が早まります。
- ストレス等の精神刺激、冷え、血の不足などから、血瘀(気滞血瘀、寒凝血瘀、血虚血瘀など)を生じ、血の流れが低下し月経が遅れます。この場合、標証(副次的な病態)としての瘀血証であり、治療は本治(主要な病態)が主体となります。
4.脾気虚証
先天的な体質虚弱、飲食の不摂生、過労、思慮過度などにより、脾気を損傷し、脾の統血作用の低下により血液が脈中から外部に溢れやすくなり、月経が早まります。
5.血虚証
先天的な血の不足、慢性疾患などによる血の消耗、脾の運化機能の低下のための血の生成不足などから、衝脈が充満されず、月経が遅れます。
6.気血両虚証
気虚証と血虚証が同時にみられる証候。脾気虚証と肝血虚証が主体となります。
脾気を損傷し、脾の統血作用の低下が主体となると、月経が早まります。
或いは脾の運化機能の低下から血の生成不足となったり、他の要因から血虚が主体となると月経が遅れます。
どちらが主体となるか不安定な場合、月経が早まったり、遅れたり、バラバラになります。
7.熱証(血熱証)
飲食の不摂生(辛いものの過食など)や暑熱の感受、ストレス等による肝火上炎等の内火、過労・慢性疾患・房事過多・発汗過多などにより陰液を消耗し、虚火が亢盛する陰虚火旺、等々により邪熱が生じ血分に侵入し、血熱となり衝脈・任脈を損傷し、血の流れが急激になり月経が早まります。
8.血寒証(実寒証・虚寒証)
- 実寒証
寒さの中に長時間居たり、月経時や産後の不摂生、生冷物の過食などにより、寒邪が侵襲し、実寒証となります。
寒の「凝滞」の性質から、血液の流れが悪くなり、月経が遅れます。 - 虚寒証
房事過多による腎陽の損傷、素体の陽虚、慢性疾患などにより、陽気を損傷し、虚寒証となります。
内寒を生じ、寒の「凝滞」の性質から、血液の流れが悪くなり、月経が遅れます。
9.痰湿証
肥甘厚味の過食、脾の運化機能の低下、肥胖などにより、痰湿が衝脈・任脈に停滞すると血液が順調に送り込まれず、経期になっても血海(衝脈)が充満されないため、月経が遅れます。
月経不順の漢方治療のポイント
月経不順は前述のような様々なしくみで生じます。
当薬局では、月経周期の状態や随伴症状、体質などを考慮し、
「血熱」「陰虚火旺」「肝気鬱結」「肝火上炎」「気虚」「血虚」「陽虚」「陰虚」「気血両虚」「腎気不固」「血瘀」「実寒」
等々に分類し、約六十種類ほどの薬方を使い分けています。
症状、体質から漢方的に分析し、原因を考察することが、治療の早道となります。
女性の場合、月経が身体に及ぼす影響は大きく、安定すると気持ちも身体も元気になってくる方が多いように思います。
女性の活躍が目覚ましい現代、貴女に合った漢方薬で快適に乗り切りましょう。