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病名別漢方治療
  • 逆流性食道炎

逆流性食道炎

西洋医学的概念

1. 逆流性食道炎とは

 主に酸性の胃の内容物が食道や口腔内へ逆流することにより、胸やけや呑酸(酸っぱい液体が上がってくる感じ)などの症状がみられる病態を胃食道逆流症(Gastro Esophageal Reflux Disease; GERD)といいます。
 胃食道逆流症(GERD)は、①糜爛や潰瘍などの食道粘膜のただれがなく自覚症状のみがあるタイプ、②食道粘膜のただれがあり、なおかつ自覚症状があるタイプ、③自覚症状はなく、食道粘膜のただれがあるタイプの3種類に分けられます。その内、①を「非糜爛性胃食道逆流症」といい、②③を「逆流性食道炎(糜爛性胃食道逆流症)」といいます。胃酸の逆流による胸やけ、呑酸などを主症状とし、胸痛、咳嗽、喘鳴、咽喉頭違和感、耳痛、嗄声などがみられることもあります。

2.逆流性食道炎の病態

 食道下部にある下部食道括約筋(LES)は、胃の内容物の逆流防止に重要な役割を果たしています。胃食道逆流症(GERD)では、下部食道括約筋(LES)が弛緩し、LES圧が低下することにより逆流を生じます。下部食道括約筋(LES)が弛緩する原因としては、加齢、胃内圧の上昇(過食、早食いなど)、肥満、衣服による締め付けなどによる腹圧の上昇、脂肪食などがあります。その他、食道の蠕動運動の低下、胃酸の分泌過多、唾液分泌低下、食道裂孔ヘルニアなども病態形成に関わっています。


漢方的な概念

1. 逆流性食道炎(反流性食管炎)

 漢方では、逆流性食道炎を反流性食管炎とも称します。胃の内容物が、食管(食道)に逆流し、粘膜の炎症、糜爛、潰瘍、線維化などの病変を生じる疾患で、胃食管反流病(胃食道逆流症)の一つとされ、西洋医学的概念とほぼ同一になります。主な症状としては、胸骨後の灼熱感と疼痛、呑咽困難、反酸などがみられる。中医学の病証では、“胸痹”“噎膈”“呑酸”“反胃”などの範疇に属します。

逆流性食道炎の漢方的な発生原因

  1. 情志抑鬱
  2. 飲食不節
    • 暴飲暴食
    • 辛辣や酸性などの刺激物の過食
    • 肥甘厚味の過食
    • 飲酒過多
    • 飢飽失常
  3. 喫煙
  4. 過労
  5. 老化
  6. 肥満
  7. 姿勢不良(猫背など)
  8. 温熱薬・寒涼薬などの過用
  9. 先天不足

逆流性食道炎の漢方的な発生のしくみ

本病の主要病位は、食管(食道)にあり、その病理機制は脾胃にあります。
「脾は升を主り、胃は受納を司る。」といわれ、脾気健升、胃気和降であれば、生理状態であり、脾失健運、胃失和降であれば病態となります。

1. 肝気犯胃

 情感不暢、憂鬱悩怒により、肝の疏泄を失調し、肝気が胃に横逆することにより胃の受納・腐熟・和降機能を正常に保つ事ができず、胃気上逆を発症します。また、肝鬱化火から胃陰を灼傷、胃火上炎すると胃失和降となります。

2. 飲食不節

 飲食不節により胃の受納・腐熟・和降機能を正常に保つ事ができず、食滞などを生じ、胃気上逆を発症します。

3. 胃気虚

 飲食不節、過労、老化、先天不足などによる胃気の不足から受納・腐熟・和降機能を正常に保つ事ができず、胃気上逆を発症します。また、生冷物の過食、寒涼薬の過用、外寒犯胃の反復などにより、胃の陽気を損傷すると胃陽虚となり、胃失和降から胃気上逆となります。

4. 血瘀胃脘

 他の病証の遷延により、粘膜の糜爛、線維化を生じ、気滞、気虚などから血瘀を形成します。

1~4などの病機により、脾胃損傷、気機阻滞、胃失和降となり胃気上逆、昇降失司を形成します。反胃焼心、反酸嘔逆、胸膈阻悶などがみられるようになります。
基本病機は、胃気上逆です。

弁証の要点

1. 弁主症

 逆流性食道炎(反流性食管炎)は、胸骨の後の灼熱感と疼痛、呑咽困難、反酸などを主な症状とします。初発で軽症のうちは、胸骨の後に灼熱感がみられる程度ですが、長期化し重症になると、焼心灼痛を訴えるようになります。これらは胃中の痰湿の邪が食管に上逆することにより発症します。嚥下時に咽奥に障害物があるように感じるものを噎、食物が通らないものを膈といいます。噎は膈の前期症状です。胃気不降により、気が胸脘に鬱結するため、飲食を阻膈するとともに、不通則痛を生じます。そのため、灼痛、焼心、反酸などの病症がみられます。

2. 弁病程

 本病の初期は、食管梗阻、胸脇痞満、焼心反酸などの症状がみられ、その後、病状が進行して気噎を発症すると、呑咽困難、飲食難下、水飲不入などが現われるようになります。さらには、気鬱化熱から熱灼傷津すると吐血便血、大便燥結などが起こることがあり、多くは中期にみられます。もし、形体消痩、肌膚枯燥、神疲乏力、気短などの症状がみられる場合は、気陰両虚や脾腎陽虚などで、多くは後期にみられます。

3. 弁虚実

 胃陰不足、脾胃虚寒は虚証、肝鬱化火、気滞血瘀は実証、胃失和降、気虚血瘀は虚実挟雑に分類されます。食滞脾胃は実証だが、長期化し胃気などを損耗すると虚実挟雑となります。


 以上が逆流性食道炎の漢方治療の概要です。

 個々の治療法や適応処方などは、症状や体質などにより異なります。また、食道癌などの他の疾患との鑑別も大切です。症状によっては、検査などを受けてから漢方治療に臨みましょう。

 臨床では、「逆流性食道炎」をはじめ、ストレスによる胃腸疾患が多く見られます。漢方を使って上手に乗り切りましょう。

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